■偽造は、どこでバレるのか
複利計算、複利、ローン、クレジット、返済、借金苦?それとも技術、腕自慢?

 電気屋に行ってパソコンとプリンタを購入して紙幣を作って、店で使ったらバレて捕まった、といった何とも間抜けな事件がニュースで流れることがあります。少しでもパソコン+プリンタで印刷した事がある人なら紙幣の偽造は難しいというのが分かるかと思います。同様に免許証などカラーものも印刷方式とインクの違いなどでバレやすいと言えます。白黒の場合にはカラーよりも簡単になりますが、印刷機などで印刷された高解像度のものと比較すると虫眼鏡または線数をチェックするシート(かな)でバレてしまいます。ドットインパクトプリンタで出力してあるのにレーザープリンタで出力してしまったり、インクジェットで出力してしまうというオチもあります。
 もっと単純に言えば素人が思いつく偽造方法では以下のような原因で簡単にバレてしまう事になります。

(1)使用時の態度が怪しい(そわそわしている等)

 これは人間の直感とも言える部分ですが、案外とここらへんで気づかれてしまう事は多いのではないかと思います。

(2)紙質が違う/サイズが違う

 紙幣や株券などは紙質が異なるため素人でも触っただけでバレてしまいます。コンビニなどで偽造したお札を使うというのは暴挙と言えます。というのは店員は頻繁にお札を触っているからです。違う紙質(硬さなど)のものを触れば、あれっと感じるはずです[参考ページ]。
 また、元のサイズと異なったサイズになってしまっていて重ね合わせられてバレてしまうというのもあります。サイズなんて違うはずがないと思われがちですが、ちゃんと裁断されていないと実際のサイズとは違うものになってしまったりします。(カッターなどで切っても切り口の感じが違ってしまったりします)

(3)新品

 使っていない新品のものだと凹凸がある紙幣などはかえってバレてしまいます。また、パソコン+プリンタでは透かし、押印ができないため素人でも分かってしまいます。透かしが入っていてもお札の下側などにある丸い凹凸部分がないため、そこでバレてしまうこともあります(触ると分かります)。
今は、少ないのですが活版印刷されたものもプリンタでは再現できないためバレてしまうことがあります。紙幣などでは、特定のインク部分が盛り上がるように作られているため感触でバレてしまいます。

(4)スキャニングの失敗

 紙幣や保険証をスキャナで取り込めばOKと思われがちですが、スキャニングで失敗している場合もあります。素人では気づかない部分もあります。スキャナおよび設定によってはモアレ(干渉縞)が発生するため特定の線数にあわせてスキャニングしないといけません。新聞など一般的な印刷物(カラー、白黒とも)では普通のパソコンでの印刷と異なりアミ点によって色と濃度が表現されます。このアミ点表現のためスキャナでは取り込み時にモアレが発生してしまうわけです。(現在のスキャナではモアレを除去(軽減)する機能があります)

【アミ点】


【モアレが発生した例。やや誇張してあります】


 また、単純に取り込んだ場合にはゴミが大量に付着してくるためPhotoshopなどでゴミ取りを行わなければなりません。これはフィルタなどでは処理できないため手作業で行う必要があります。(Photoshopフィルタのダスト&スクラッチでも、ものによってはゴミを削除することはできます。モアレもダスト&スクラッチもある程度除去できます)
 スキャニングの角度も重要です。角度によっては線が直線にならなかったり、余計にモアレが発生してしまったりするためです。Photoshopなどで後から角度を調整した場合には輪郭がぼけてしまったり不正確になるため汚いものになり、それでバレてしまう事があります。白黒や単色の場合は45度が多いようです。[参考ページ

(5)印刷の失敗(色)

 スキャナで取り込んでプリントしただけでは色合いが異なるためバレてしまいます。カラーを調整する、ColorSyncを使って調節するなどしても限度があります。
 お札のように特色を使って印刷されているものではパソコン+安物プリンタでは実現できません[参考ページ]。特色なので通常のCMYKによる印刷とは異なるので見た目にもバレてしまいます。RGBで印刷するプリンタもありますが、発色が特色とは異なるためやはり見た目にバレてしまいます[参考ページ]。また、2000円札や今後発行される新紙幣などでは特殊な技術が使われており、パソコン+プリンタでは作れないようになっています。特殊発光インキを使われた場合には市販のプリンタでは印刷する事ができません。
 パソコン+スキャナ+プリンタで、かなり正確に偽造した場合でもインクの乗り方が違うためバレてしまうことがあります。通常カラー印刷はCMYKの4色を使いますが、K版がなくても茶色がかかった黒色を表現することができます。黒であって黒でない色とも言えます。印刷の場合はプリンタでの印刷と異なりK版、C版、M版、Y版といった具合に別々に刷られます。つまり黒の上に別のインクが乗ることになります。しかし、プリンタの場合は1回で全ての色を印刷してしまいます。つまり厚みがない、インクの乗りが違ってしまう事になります。

(6)印刷の失敗(解像度)

 カラーの場合、コンビニのカラーコピー機では解像度が低いためアミ点によるグラデーションなどは正しく再現することができません。雑誌などをコピーしてみれば分かるでしょう。白黒でも同様でコンビニのカラーコピー機では特定の割合のアミ点が飛んでしまう=消えてしまいます。
 カラーでなくモノクロの場合は安いプリンタでも1200dpiなど高解像度になっていますが、設定によっては300dpi、600dpiなどで印刷できるものもあります。300dpiでは細かい文字が見えないのと(6ptあたりがいいところ)、線がシャープでないため見た目にバレてしまいます。さすがに1200dpiになると線もシャープになるため判別が難しくなります。印刷物の場合は、もっと解像度が高く2560dpi以上になります。

(7)印刷の失敗(文字)

 保険証などはモノクロなので簡単にできそうですが、文字には書体(フォント)があるため、書体が違ってバレてしまうことがあります。まあ、明朝体ゴシック体ほど異なったものを使う人はいないでしょう。文字は平仮名など曲線の多いものは曲線部分が書体によって異なるためパソコンに入っている文字を使ってしまうと違和感を感じて、それでバレてしまうというのがあります。パソコンではモリサワなどの書体、ダイナフォントなどの書体が利用されますが、古くから使われシェアの大きかった写研のフォントはデジタル化されていないため、スキャナで取り込んでIllustratorなどでトレースするといった処理を行わなければなりません。また、Macのみでしかない書体とか古い機種でしか存在しない書体などを使った場合には、かなり制作者が特定されてしまうことがあります。

(8)磁気判定による失敗

 紙幣などには偽造防止のため「磁気」が仕込まれています。これにより自動販売機(紙幣交換機)では本物かどうかを判断しています[参考ページ]。

(9)透かし/ホログラム

 紙幣には透かしが入っているので、紙幣を光にかざせばバレてしまいます。また、2000円札のようにホログラムが利用されている場合には市販のプリンタでは無理ですので簡単にバレてしまいます。

(10)水

 市販のインクジェットプリンタの多くは染料系のインク[参考ページ1][参考ページ2]のため水に弱いという性質があります。つまり偽紙幣などを作っても水滴がついてしまえば、そこがにじんでしまいバレてしまうことになります。
 EPSON PM-4000PXのように顔料系インクであれば水に濡れても大丈夫ですが、顔料系インクは染料系インクに比べて発色の点で異なります。このため色が再現できずにバレてしまうことがあります。また、EPSON PX-G900のようなグロスオプティマイザを使用すると、べたつくので簡単にバレてしまいます。



■偽造されないように細工する

 個人でチケットを制作したりする場合でも、下手に作ってしまうと偽造されてしまう場合があります。規模が大きいイベントなどでは印刷所に頼むのも良いのですが、それでも単純な作りをしてしまうとコンビニのカラーコピー機やパソコン+スキャナ+プリンタで偽造されてしまい利用されてしまう可能性があります。
 小規模なイベントで手持ちのパソコン+プリンタで全てのチケットを印刷できるのであれば、ある程度の対策を施すことができます。私が主に使っている方法は(1)(2)(3)(4)(5)(6)です。また、開催日が複数ある場合には日によって紙の色を変えるといった事も行っています。

(1)5%以下のアミ掛けを入れる

 コピー機では5%以下のアミ掛けは飛んでしまってコピーした紙には現れません。手持ちのプリンタで5%のアミ掛けが表現できるのであれば、この手法が一番簡単じゃないかと思います。ちなみに5%の濃さは以下の画像の明るさです。

【5%】


(2)特色を使う

 一般のプリンタでは特色は無理と書きましたが、アルプス電気のマイクロドライ方式のプリンタでは、いくつかの特色印刷が可能です。このプリンタを持っているのであれば紙の色を白色以外にして一部を白色や金色で印刷するようにします。金色はコピーできませんし、紙が白以外の場合はコピー機ではうまく再現されません。また、同色の紙をコピー機に通された場合でも白色は出ませんから偽造される可能性は減ります。

(3)細い線を使う

 0.1ptなどの細い線を使うようにするとコピー機やスキャナでは線が途切れたりかすれたりしてしまいます。細い線を使ったレイアウトや文字などを使うと良いでしょう。紙幣などもヒゲのある人物を使ったり線を細かくしたり太さを変化させて偽造を防いでいるのも同様の理由です。

(4)明朝体を使う

 (3)と同様ですが、文字の書体を明朝体として、どこかに利用します。英文字の場合は細い書体、細い線で構成された筆記体などの書体(present、Timesなど)を使います。

(5)細かい文字を入れる

 スキャナやコピー機では4pt以下の文字はうまく再現されないことがあります。これを利用して小さい文字を横一列に帯状に並べたりすると本物は文字、偽造したものは帯となって表現されるため、見て本物かどうかを判別することができます。

(6)印鑑を押す

 手間をかける余裕があるならば朱肉で印鑑を付いてしまう方法もあります。また、シリアル番号を手作業で付けるという方法もあります。単純な方法ですがインクなどが違う、印章が違うので偽造を見破りやすくなります。

(7)染料系インクと顔料系インクを使う

 もし、プリンタが染料系と顔料系の2種類使えるならば印刷部分の一部を染料系にすることで本物かどうかを判別することができます。受付などで水を用意しておき、チケットの特定部分(例えばロゴや印章部分など)を濡らすと顔料系はにじみませんが染料系はにじみます。コピー機を使ったものはにじむことはありませんし、染料系のプリンタのみで再現したものは全体がにじみます。顔料系であれば全くにじみませんから本物かどうかをチェックすることができます。

(8)特殊な液を紙に付けておく

 昔、リンゴの汁であぶりだしなどをやった覚えがあるかと思います。このような特殊な液などを付けておくことで判別することができます。

(9)古いプリンタを使う

 古いプリンタは解像度が低くディザなどのパターンが分かってしまうのですが、スキャナなどで取り込むとモアレになってしまう事があるので本物かどうか見た目で判別できます。また、熱転写プリンタ、ファックスなどを使うという方法もあります。紙が紙なのでコピーは難しくなります。ファックスのコピー機能は性能が悪いためアミ掛けと同時に使えば偽造は難しくなります。

(10)入手が難しい紙を使う

 一般人には入手が難しい紙を使うという方法もあります。ただ、紙によってはコストがかさむ場合があります。

(11)アミ点を円形以外のものにする

 画像などが入る場合には通常のアミ点である45度、円形以外のものにする方法もあります。例えば0度、線形にすると以下のように違ったものになります。

45度、円形 0度、線形

 PostScriptプリンタが使えるのであれば、独自にアミ点関数を作成して、それを使用するという方法もあります。アミ点関数の作成、指定についてはPostScriptを自分で記述するか、アミ点関数のみを指定する方法があります。詳しくはアスキー出版のPostScript リファレンスマニュアル 第2版以降(Level 3対応のはこちら)を参照してください。

(12)シールを貼る

 今年(2004年)に発行された新札のようにシールを貼る(ホログラム部分)というのも偽造を防ぐ良い手法かもしれません。ただ、この方法だとコストと手間が増えるので予算との相談になります。
 もっと変わり種の偽造防止としては、あぶりだしと同様の手法もあります。短期間のみであれば、果汁を紙に塗っておけば、チェックに時間はかかりますが、偽造されたかどうかが分かります。




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